不安と恐怖の日々で現れた“ある異変”

訪問支援がなくなり、友恵さんにいつもの日常が戻ってきたある日のこと。友恵さんに気になる言動が現れ始めました。

友恵さんは「監視されているかもしれない」「盗聴されているかもしれない」と言い出したのです。時には監視カメラや盗聴器を探すため、家具を動かしてその裏側を確認することもありました。

「外から監視されているかもしれない」と言って、両親にカーテンや窓を開けないよう強要してくることもありました。

時を同じくして、幻聴も始まるようになりました。

「2階の窓から飛び降りろ」「川に飛び込んで溺れてしまえ」といった自傷を促すようなものが多かったそうです。

心配した母親は、友恵さんに病院に行くよう促しました。

しかし友恵さんは「なんでそんなことを言うの? 私はおかしくない! 病院なんか行かない!」と言って受診を拒否。

無理に受診させるわけにもいかず、母親はどうしたらよいのか分からなくなってしまいました。そのような悶々とした気持ちを抱えたまま、さらに月日は流れていきました。

真冬の夜の緊急事態

友恵さんに気になる言動が現れてから10年がたった頃。友恵さんは33歳になっていました。

そんなある日の深夜。突然友恵さんの叫び声が家の中に響き渡りました。

驚いた両親は飛び起き、友恵さんの部屋へ駆け込みました。

「部屋の中に誰かがいる!」

友恵さんの目は見開かれ、恐怖に怯えています。

母親は「何もいないよ。落ち着いて。大丈夫だから」と言いましたが、その声は友恵さんには届きません。

母親は必死に落ち着かせようとしましたが、友恵さんの混乱は収まりません。仕方なく父親が警察に通報をしました。

自宅に警察官が現れると、友恵さんは「私を捕まえにきた!」と勘違いをしてしまったようで、裸足のまま外に飛び出しました。

「ちょっと待ちなさい!」。声を上げる警察官の制止を振り切り、友恵さんは暗い夜道を一心不乱に走っていきます。

しかし、長年のひきこもり生活で体力がない友恵さんは、すぐに肩で息をしながらよろよろと歩き出しました。そのすぐ後ろから警察官が迫ってきます。

パニックになった友恵さんはさらに逃げようとし、寒空のもと川に飛び込んでしまいました。

その後、警察官に保護された友恵さんは医療保護入院をすることになりました。

入院先の病院で友恵さんは統合失調症の診断を受け、治療を開始することになりました。そして1カ月後に退院。自宅に戻った友恵さんは幾分か落ち着きを取り戻していました。

しかし、とても社会復帰ができるような状態ではなく、就労も困難なので収入の見通しもまったく立っていません。

●果たして友恵さんは無収入状態を抜け出せるのか……。親子がたどったその後の結末は、後編【「早く受診させていればよかった」33歳ひきこもりの娘を持つ母の後悔…無収入状態を脱するまでの苦労の道のり】で詳説します。

※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。