しかし義母は
家には穏やかな空気が流れていたが、瑛子はそれが気に入らなかったらしい。
「……まったく」
しばらくして義父が散歩に出かけた隙に、持参したオモチャで機嫌良く遊ぶ伸弥を見やりながら義母は低い声で弘美に言った。
「それにしても小さいわねぇ、この子。やっぱり、お米をちゃんと食べさせないとダメよ。パンばかりじゃ栄養が偏るんだから」
「……そうですね」
弘美はうつむき、息子の髪を撫でながら曖昧にうなずいた。
食事にも、子育てにも、弘美なりに気を遣っているつもりだ。しかし、義母はいつも端から決めつけてかかる。
「あとほら、あなたって母乳、ちゃんとあげなかったでしょ? だから、発育が遅いのよ。早生まれでもないのに、こんなに小柄で可哀想。見てるだけで涙が出てくるわ」
容赦なく浴びせられる言葉に、身体がぎゅっと縮こまった。
確かに、弘美はほとんど母乳育児ができなかった。出産後、体調を崩し、薬を飲まなければならなかったからだ。母乳を断腸の思いで諦め、ミルクに切り替えたあの日のことを、弘美は一生忘れない。
「あなたたちが、結婚してだいぶ経ってからやっとできた子どもでしょう? 34歳で初産なんて……今まで黙ってたけど、私、ずっと気になってたのよ」
瞬間、何かがぷつんと音を立てて切れた気がした。
結婚して7年目、ようやく授かった息子。その裏には、何年にもわたる不妊治療があったことを、義両親には伝えていなかった。弘美が勇樹に伝えないでほしいと頼んだのだ。
弘美たちは、何度も治療を受け、そのたび結果に落ち込んだ。ホルモン療法も、タイミング療法も、人工授精も試した。それでも、なかなか授からなかった。どれだけ涙を流したか、どれだけ自分を責めたか。そんな過去を、義母は知りもしないくせに、軽々しく弘美の心を踏み荒らす。
「遅いときの子どもなんだから、なおさらもっとしっかり育てなきゃ」
畳みかけるような言葉に、弘美は唇をかみ締めた。
悔しくて、悲しくて、情けなくて、涙があふれそうになる。
でも――ここで泣いたら、負けだ。
義母に、弱みを見せるわけにはいかない。弘美は、黙って義母の言葉をやり過ごした。心の中で、必死に、耐えながら。