<前編のあらすじ>

弘美は憂鬱だった。理由は義実家への帰省である。義母の瑛子は弘美の顔を見れば嫌味を言ってくるような人間だった。

それでもいつもの帰省では夫の勇樹がいたから大丈夫だった。しかし、今回ばかりは違う。勇樹の仕事が休みに間に合わず、初日だけは夫なしで義母たちと向き合わなければならなかったのである。

手土産に高級食パンを持参し、息子の伸弥とともに義実家の門をくぐる。弘美は瑛子に土産の入った紙包みを手渡すのだが「こんな高い食パン、無駄よねえ」と一言。結局返ってきたのは嫌味だった。

瑛子のとげとげしいふるまいは変わらず、憂鬱なまま2日目がやってきた。

前編:「こんな高い食パン、無駄よねえ」手土産の高級食パンに義母が嫌味……夫抜きの義実家帰省で見た悪夢

目が覚めると

翌朝、台所から漂う良い匂いで目覚めた。まだ少し眠たい目をこすりながらも、もう少し早く起きればよかったと早速後悔している弘美は伸弥と一緒に慌ててリビングに向かう。

「おはようございます」

「あら、起きたのね。朝食、できてるわよ」

義母が、エプロン姿でにこやかに迎えた。

その笑顔にどこか不気味さを感じながら、弘美は「ありがとうございます」と頭を下げた。見るとダイニングテーブルに並べられていたのは、昨日、手土産に持ってきた高級食パンだった。大きな角食が、厚切りにされて、こんがりと焼かれている。そして、その前には、すでに義父が座っていた。普段は寡黙で表情の読めない義父が、食パンのパッケージを眺めて、嬉しそうに目を細めていた。

「……これ、テレビで見たことがあるやつだな」

義父はぽつりと呟いて食パンをかじった。

「うまいな」

その一言に、弘美は思わず顔を上げた。

義父は、ゆっくりと噛みしめるようにパンを味わいながら、もう一度「うまい」と繰り返した。その様子は、あまりにも自然で、微笑ましかった。

「よかったです……お口に合って」

思わず小さく呟くと、義父はちらりと弘美を見て、ほんのわずかに口元を緩めて頷いた。それだけで、昨日の疲れがすっと消えていく気がした。