リビングのテーブルに置かれていたのは

ゴールデンウィークが明けた次の日曜日。

休日だから朝寝坊してもいいのに、淳也の朝練に合わせて癖はなかなか抜けない。
佳代は台所で湯を沸かしながら、ゆっくりと朝の空気を吸い込んだ。カーテン越しに入ってくる光は柔らかく、外からは遠く鳥の鳴き声が聞こえる。

「……ん?」

リビングに向かおうとしたそのとき、ふとテーブルの上に目が留まった。そこに、見慣れないものが置かれていたからだ。

薄いピンク色の紙袋と、細長い花束。近づいてよく見ると、それは一輪のカーネーションだった。

「……これ、なに……?」

手に取った紙袋には、丁寧なリボンがかかっている。中には、シンプルなデザインのハンドクリームと、メモ用紙がひとつ。

「いつもありがとう」

たったそれだけの文字だったが、佳代の胸は一瞬でいっぱいになった。ソファに腰を下ろしてぼんやりと花を見つめていると、階段から足音がした。

「おはよう……」

振り返ると、少し寝癖のついた髪を整えた淳也が、リビングに入ってきた。

「お、おはよう……」

佳代は声がうまく出なかった。驚きと、少しの動揺と、胸の奥の温かさに包まれて、二の句が継げないまま見つめていると、淳也は照れくさそうに笑って、目をそらした。

「……それ母の日」

「え?」

「今日、母の日でしょ。一応」

佳代は息をのんで、その言葉を胸に受け止めた。母の日にプレゼントをもらうなんて、何年振りだろう。

「ありがとう……」

涙が出そうになるのをこらえながら、佳代は言った。