言っていることはわかるが……
佳代はふっとため息をついた。夫の言うことはもっともだ。でも、待つことが、こんなにも苦しいのだと、彼にはわかっているのだろうか。
通話を切ったあと、佳代は静かなリビングにひとり座り込み、スマホを片手に何気なく検索を始めた。
「高校生 進路 話し合えない」
「思春期 息子 接し方」
「子どもが変わった 部活 挫折」
関連する記事が次々に出てきて、どれも似たような体験談ばかりだった。「口を出すと逆効果」「まずは見守る」「干渉しすぎず、関心を持つこと」……わかっている。
そんなこと、もう何度も読んできた。
結局、ネットで得られるのは、知識ではあっても答えではない。画面を閉じて、ふと棚に並べた育児本に目をやる。淳也が小さいころに買ったものや、最近になって買い足した「思春期の子どもとの接し方」といったタイトルの本たち。どれも役に立った気がしない。
佳代が知りたいのは、「淳也」というひとりの人間の気持ちであって、統計でも理論でもないのに。
押し入れの奥にしまい込んだグローブと、キャッチボール用のボールを思い出す。あの子の少年時代を詰めこんだような野球バッグは、今はもう使われることもなく、埃をかぶっている。ただひとつ変わっていないのは、あの子が佳代の息子であるという事実だけ。
だが、今となってはどうやって接すればいいのかすら、わからない。
夜が更けていく中で、佳代はリビングの明かりを消し、そっとソファにもたれた。