実家で見たのは

ためらいながら玄関のチャイムを押すと、すぐに浩平が顔を出した。相変わらず穏やかな笑顔に、ふっと肩の力が抜ける。実の妹である静子でさえ、ほとんど怒ったところを見たことがない兄は、50代に入ってますます柔和になった気がする。

「静子、おかえり。忙しいのにありがとう」

「……ううん、お兄ちゃんこそ、いろいろ大変だったでしょ」

「いやこっちは全然。近くに住んでるんだし平気だよ」

浩平に続いてリビングに入ると、座椅子に腰掛けた父がこちらを見上げた。

「ああ……静子か」

「うん、久しぶり、お父さん……」

静子はぎこちなく微笑んで、隣の座布団におさまった。

数年ぶりに近くで見た父は、静子の記憶の中の姿よりも数段老いていた。頬はげっそりとこけ、手首も骨ばっている。もともと小柄だった身体が、さらに縮んだようだった。

何年も、父を放置していた後ろめたさが胸に重くのしかかる。母が亡くなった後、残された父を心配した浩平はこまめに実家に通ってくれていた。いくら同じ地区に住んでいるとはいえ、彼には仕事も家庭もあるというのに。

「それで……倒れたって聞いたけど、もう大丈夫なの?」