夫は義母に
それからしばらくして、結婚式で流すプロフィールムービー用の写真を選ぶために春美たちは再び雅史の実家を訪れた。
楽しいイベントのはずなのに、玄関を開けた瞬間、あの緊張感が体にまとわりつく。
雅史のアルバムからいくつか写真をピックアップしたあと、みんなでリビングに座ってお茶を飲んでいると、芙美子はにこやかな笑顔を浮かべながら、さっそく口を開いた。
「そう言えば、式のドレスはどうするの? 知り合いのデザイナーを紹介しましょうか?」
「ありがとうございます……でも私、着たいドレスがあって……」
春美がブライダルショップに下見に行ったときの画像を見せると、芙美子は薄く笑った。
「うーん、春美さんにこのドレスはどうかしら? 綺麗に着たいなら、あと10キロは落とさないとね。当日、パンパンだったらみっともないわよ」
あからさまな言葉に、胸の奥がちくりと痛んだ。思わず身体を固くしたとき、隣にいる雅史の手が、そっと春美に触れた。
「母さん、自分の考えを俺たちに押し付けないでくれ」
雅史の声が、静かに、でもはっきりと響いた。
「これからのことは、俺たちで決める。母さんのアドバイスはいらない」
「私は、何も意地悪で言ってるわけじゃない。あなたたちがよそで恥をかかないように……」
「余計なお世話だよ」
リビングの空気が、一瞬で凍りついた。芙美子が驚いた顔で雅史を見た。
「何を……」
「俺は、春美と一緒に自由に生きたい。見た目とか、周りの目とか、そんなものに縛られないで。だから、もう母さんの言葉に左右されるつもりはないよ」
言葉は決して荒くなかったが、その中に揺るぎない決意が込められていた。芙美子は何か言いたげだったが、結局何も言わずに、そっと視線をそらした。その沈黙が、雅史の言葉の重みを証明していた。