想いを反映した遺言書を作成し、自宅保管することに
「遺産は全部、一郎に渡したい。あいつには世話になったからな」
一通り相続に関する思いを語り、最後にそう締めくくった鈴木さんの事前準備は抜かりなかった。
即日、自筆証書遺言を私と一緒に作成した。形式に不備がないよう、文言や表現、署名や日付などすべてを私がチェックし、完成させた。
作成の開始からさほど時間はかからず、自筆証書遺言が完成した。内容としては鈴木さんの希望通り、「兄・一郎に全財産を相続させる」というものだ。
この遺言書は、鈴木さんが持ち帰った。彼は自分の死後、簡単に見つけてもらえるよう自宅の引き出しに保管すると言っていた。
3年後に訪れた心境の変化…書き換えた“もうひとつの遺言書”
時は流れ、3年ほどの期間が経過する。ちょうどそのころ、弟の徹さんも加齢からか物腰が柔らかくなっていた。距離も自然と縮まり、鈴木さんの心境にも変化が生じたようだ。
「最近、徹の世話になることも増えたな。少しはあいつにも渡したほうがいいんじゃないか」
そう思うようになったのだ。
兄への感謝の気持ちは変わらないものの、弟との関係も改善しつつあり、幸せをかみしめる日々が続く。
そうしていくうち、鈴木さんの中で新たな考えが芽生えた。「あのときも自筆証書遺言だったし、自分で書き直せばいいのではないか?」。その思いが次第に強くなっていく。
当時の私は多忙を極めており、予約は1カ月以上先まで埋まっていた。
鈴木さんは、相談に時間がかかることを懸念し、自分で対応することを決意した。そして、「遺産は兄と弟が50%ずつ分ける」という新たな遺言書を作成したのである。
しかしこのとき、問題が発生した。
その問題とは、新しい遺言書の中に、以前の遺言と矛盾する記述がいくつか残っていたことだ。
例えば、新しい遺言書では兄と弟が平等であるにも関わらず、「兄に全財産を託す理由」といった表現がそのまま残されていたり、財産の内訳の詳細について旧遺言の内容が混在していたりしたのだ。
●遺言書の書き換えによって引き起こされた、思いもよらない展開とその結末とは——後編【専門家が警告! 独断で遺言書を書き換えてしまった70代男性…その後、家族に起こった相続トラブルと驚きの顛末】でお届けします。
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