どっちが大事

「あのね、金額じゃないのよ。身内を悪く言うのも気が引けるけど、ビジネスって言ったって、具体的なこと何も言わないでしょ。本当かどうか……」

「だとしても、これで揉めるほうが面倒だろ。変なところに縋りついて借金されるよりは、うちから貸してやったほうが何かと安心だし」

「あのね、私たちだけの問題じゃないでしょ。加奈子はどうするのよ? あの子の大学受験だってあるの。受験だって進学だって、お金はかかるんだから」

「……それは分かるけどさ」

「加奈子の将来と、立派な大人の侑里さんのビジネスと、どっちが大事なの?」

「そりゃ加奈子だよ」

伊織が強い口調で言うと、佑次はそれだけ答えて黙り込んでしまった。まだ完全に納得したわけではないのだろう。

「あーやだやだ。こんなことで揉めるなんて馬鹿みたい。もう忘れましょ」

伊織は多少乱暴だと分かっていながら、そう言って話を強引にまとめた。佑次は本を閉じ、ベッドに横になる。伊織もはがしたパックを丸めてゴミ箱へ捨ててベッドへ入り、ベッドサイドのライトを消した。

2週間後の給料日。生活費を下ろそうと銀行へ向かった伊織は、ATMから戻された通帳を見て唖然とする。

通帳は伊織、キャッシュカードは佑次の管理で運用していた家族口座の残高が目に見えて減っていた。見覚えのない引き出し金額はぴったり50万円。心当たりはひとつしかなかった。

●佑次が義妹の侑里にお金を貸したことが分かったわけだが、侑里は一体何にお金を使ったのか。遂に伊織たちは侑里の家に乗り込むことになるのだが、そこで知ったのは衝撃的な事実だった。後編:【「全部使っちゃったから1円も返せない」50万円を夫に無心した義妹、築古のマンションで明らかになるその正体】にて詳細をお届けする。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。