見知らぬ番号から電話が
バイト先のコンビニは相変わらず寂れている。
蛍光灯の光が無機質に店内を照らし、洋幸はあくびを噛み殺しながら、時折来店する客を機械のようにさばいた。
流れ作業でおつりを渡すこの手には、数時間前まで大金があった。しかしそれを手放した洋幸は、こうして最低賃金のバイトに戻ってきた。正直者は馬鹿を見る、とはよく言ったものだ。
ふと、冷蔵ケースに並ぶ缶コーヒーを見つめながら思った。あの金があれば、こんなバイトはしなくてよかったのに。あの金があれば、まともなギターの弦も、マイクも、新しい機材だって買えたのに――。
「……いつまで、こんな生活を続けるんだろうな」
誰に言うでもなくつぶやいた声は、店内のBGMに掻き消される。知らないアーティストのバラードだったが、きっと夢を叶えた誰かの歌だった。
スマホの画面に見知らぬ番号が表示されたのは、財布を届けてから3日後のことだった。
バイトが終わり、アパートの狭い部屋で角が擦れて丸くなった大学ノートに歌詞を書きつけていたとき、机の上でスマホが振動した。
「……はい?」
「もしもし、井上さんですか?」
落ち着いた男性の声だったが、聞き覚えはなかった。
「あ、はい。そうですが……」
「駅前の交番に、財布を届けてくださいましたよね?」
「あ……はい」
「私、その財布の持ち主です。桜井といいます。本当にありがとうございました」
桜井、と名乗るその人の声は、柔らかくもどこか威厳を感じさせた。
「良かったら、お礼をさせてもらえませんか?」
その言葉に、洋幸の心臓が跳ねた。
財布を届けたあと、警官の言っていたことがどうしても気になってネットで検索したところ、お礼の相場は5%から20%くらいと書いてあった。100万円が入っていた財布なのだから、お礼は5万――いや、もし20万だったら新しいギターだって買える。
「せっかくなので、直接会って、お礼をさせてください。お時間、いただけませんか?」
「……分かりました」
断る理由はないだろう。