<前編のまとめ>
長年、中村保彦さん(仮名・50歳)は建設業界で働いてきました。
業務内容は正社員と変わらないのに、待遇はずっと契約社員です。このままでは一生、正社員になれないと退職を決意。しかし、中村さんが「辞めたい」と告げると、会社は必死に引き止めてきます。
温厚な中村さんは退職を申し出るたび、会社から説得されてしまいます。気が付けば50歳。焦りを感じ始めたとき、偶然に「退職代行サービス」を知ります。
●前編:【中高年の退職代行】会社に退職を認めてもらえず、気がつけば50歳「このままでは契約社員で終わってしまう」
退職代行を使わざるをえない労働環境
「こんな歳でも利用できますか?」
中村さんは、退職代行は若者のためのサービスと思っていたようです。退職代行とよくセットで「Z世代」が語られるからでしょう。そこにはコスパやタイパを重視するといわれるZ世代は、「我慢強くないから、退職代行を使って、すぐに責任から逃げる」という批判的なニュアンスも含まれています。
しかし、実態は大きくかけ離れています。退職代行を使わざるをえない、驚くほど劣悪な労働環境は、いまだに日本に数多く存在しています。若者の利用者が多いのはSNSの普及率が高いからでしょう。SNSの登場で、昔に比べ「職場環境の比較」が容易になりました。
そしてSNSの利用は若者だけには留まりません。中高年の方もSNSなどで仕事の不満を吐露し、自身の境遇の異質さに気づくようになりました。
しかし退職の意思を伝えても、中村さんが勤めていた会社のように、法律に則って、きちんと手続きしてくれないところがあります。会社側からすれば、貴重な戦力に抜けられたら困ります。それも正社員に比べ、人件費は安く、いざとなればクビも切りやすい契約社員の待遇で採用できているので、余計に逃したくなかったのかもしれません。