無理をして誰かと一緒にいる必要はない

梨沙子がすし屋に立ち寄ったのは、ほんの思い付きだった。冷たい秋の風に身をすくめながら歩いていると、ふとすし屋ののれんが目に入り、気が付くとふらふらと吸い寄せられるように店に入っていたのだ。

熱かんと一緒にすしをいくつか腹に入れると、身体が温まり、心も軽くなった。

失敗続きの婚活を冷静に振り返る余裕も出てきた。そして最終的に梨沙子は、これで良かったのかもしれないと思った。無理をして誰かと一緒にいようとする必要はない。

もちろん、老後の不安など先々のことを考えれば不安の種は尽きない。だが、無理に相手を探して失望するくらいなら、1人で自分の時間を楽しむ方が良い。

そう思えると、ふっと肩の荷が下りたような気がした。

人生は、パートナーの存在で豊かになることもあるが、自分自身で楽しむことも大切だ。

これからはもう少し自分のために時間を使ってみよう。

すし屋に飾られた見事な掛け軸を眺めながら、梨沙子は新たな趣味との出会いに思いをはせた。

複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。