成年後見人が生んだ親子の分断
都心の不動産投資ブームが私の住むエリアにも波及し、わが家の所有する土地や物件を売ってくれないかと声がかかるようになりました。
税理士も母の相続を見据えて売却を前向きに検討した方がいいと背中を押してくれましたが、またしてもそこに立ちふさがったのが件の後見人でした。私たちきょうだいが勝手に不動産を処分することはまかりならぬ、というのです。
「奥さんを経済的に擁護する立場にあるのは分かりますが、実務を担うお子さんたちへの配慮が全くない。これでは相続税対策もできません。私たちの敵ですよ、あの人は」
温厚な税理士もさすがに腹に据えかねたらしく、最近は後見人への敵対的な言葉が目立つようになりました。
それは私や弟も同じです。そして、やり場のない怒りはいつの間にか、全く罪のない母にも向けられるようになっていました。
そんな私の心の変化に、妻はうすうす気付いていたのでしょう。今年の秋の彼岸、父と兄の墓参りを済ませた後に立ち寄った喫茶店でこんなふうに言われました。
「お義母さんが亡くなったら、財産を自由にできるようになるわけでしょ? 今みたいな状態が続くと、あなたたちきょうだいがお義母さんに長生きしてほしいって思えなくなるんじゃないかと心配してる」
妻なりに私と弟を配慮しての言葉だったのでしょうが、的を射ていて返答に詰まりました。実際、母が亡くなればあんな後見人に干渉されずに済むのにと感じたことがゼロではなかったからです。
気が付けば、施設の母を見舞う機会もめっきり減っていました。
母は来年の春、88歳の米寿を迎えます。日本人の女性の平均寿命(87.14歳)を超えたばかりですが、内臓や足腰は健康でアルツハイマー型認知症以外には持病もなく、90歳を超えて生きてくれるのではないかと思います。
しかし、それを素直に喜べない自分にいら立ちを禁じ得ない昨今です。親子の分断をもたらしたあの後見人は、わが家にとっては疫病神以外の何物でもありません。
※個人が特定されないよう事例を一部変更、再構成しています。