<前編のあらすじ>
千葉県在住の向後高徳さん(仮名・50代男性)は地主の家の出身で、3人きょうだいの次男です。先代の父親は唯一の後継者に長男を指名し、父親の死後は長男が全財産を承継しました。
長男がすべての遺産を承継すること自体は以前から決まっており、家族間で“骨肉の争い”が起きることはありませんでした。
しかし、その兄が生涯独身を貫いたまま3年前に急逝。ここからすべての歯車が狂い始めます。
●前編:【地主一家に起きた想定外の相続トラブル…すべての歯車を狂わせた「唯一の後継者」の急逝】
後継者としてすべてを受け継いだ兄が急逝
私は代々続く地主の家に、男ばかりの3人きょうだいの次男として生まれました。私たちの父は質実剛健を好む一方、昔かたぎの頑固な人で、幼い頃から「家業は兄に継がせる、自分の全財産は兄に相続させる」と決めていました。
実際、8年ほど前に父が急死した後は、兄が家業と父の財産を引き継ぎました。父にすれば誤算だったのは、それから5年後に兄も父と同じ急性心疾患で命を落としたことでしょう。
兄には家族がいませんでした。20代の頃に父から恋人との結婚を反対され、仲を引き裂かれて以降、見合い話には耳も傾けず独身を貫いてきたからです。
80代後半の母と私、そして弟が残されたのです。
その中で、当面は私が業務を引き継ぐことになりました。何代も前から取引のあった工務店に婿養子に入った気楽な身分だったからです。弟は高校の教師で担任も持っており、年度の途中で辞めるわけにはいかない事情もありました。
もっとも、家業の方は長年お世話になっている不動産屋や税理士事務所のサポートもあり、さほど慌てふためくことはなかったのです。
むしろ大変なのは、兄の相続の方でした。