母親の成年後見人が全財産の承継を主張

配偶者や子供のいない兄の相続人は母となり、私や弟は相続権を持たないことは、恥ずかしながら、その時に初めて知りました。

それでも、これからは私や弟が家業を引き継いでいくわけですから、幾ばくかの財産は受け取れるものと楽観視していました。

そんな甘い考えを引き裂いたのが、母の成年後見人となった弁護士でした。

兄が亡くなった時、母はアルツハイマー型認知症で施設に入居していました。相続に当たり、判断能力がないと見なされた母は成年後見人をつけることになったのです。

家庭裁判所に後見人の申請をしてから後見人が選任されるまで4カ月近くもかかり、相続税の申告期限まで10カ月しかない中で相当イライラさせられました。

ようやく選任されたのは隣の市に事務所を置く弁護士でした。ベテランで後見人の経験も豊富ということで胸をなで下ろしましたが、これがまた、とんでもない輩だったのです。

兄が遺言書を残していませんでした。それをいいことに、後見人はなんと母への全財産の承継を主張してきました。これには私たちも口あんぐりでした。

親子間の相続だったら「遺留分」という最低限の取り分が保証されるのですが、きょうだいには遺留分はありません。そもそも相続人でもない私と弟は法的には無力でした。

家業にも関わることなので税理士が粘り強く交渉してくれましたが、色よい返事はもらえず、兄の財産は母名義に書き換えられました。

「冗談じゃねぇよ。何考えてんだよ」

相続の手続きが終わった後、弟が吐き出すように言いました。無理もありません。後見人には家庭裁判所が定めた月額5万円以上の報酬に加え、遺産分割協議などの付加報酬まで払わされるのに、この仕打ちなのですから。

しかし、後見人とのトラブルはそれだけで終わりませんでした。