原因は熱中症
そのまま休んでいると山岳救助隊が到着した。世那は救助隊の人たちに事情と処置の内容を説明する。洋祐も救助隊から幾つか質問をされ、それにうなずいて答えた。隊員はテキパキと準備をして、洋祐を背負う。
単なるおんぶではなく、ザックのショルダーストラップのところに洋祐の足を入れる。そうしてザックを背負うと、本来なら洋祐の体を支える手の役割をザックがしてくれるので、隊員の手が空き、担ぐときの負担を軽減することができる。とはいえ、このまま下山するというのが大変なのには変わりがない。
「こ、このまま下りるんですか?」
世那が心配そうに質問すると、隊員が朗らかな声で説明をする。
「いえ、近くにケーブルカーがありますので、それで下山します。麓には救急車が待機していますので、そこから病院に向かってもらいます」
そう言って隊員たちは進み出した。
世那はちらちらと洋祐を確認しながら歩いた。思いのほか早くケーブルカーに到着し、そのまま麓へと最速で下りた。麓に下りてからは、すぐに救急車に乗せられて病院で診察を受けた。診断の結果は熱中症ということで、点滴を受けて休んだ。入院とまではいかなかったが、適切な処置がされていなければ命の危険すらあったらしい。慣れない山道で思いのほか体力を消耗したことはもちろん。トイレを気にして水分を最低限しか取らずにいたことも、熱中症の引き金になったらしい。
幸い、病院から帰ったあと自宅のベッドで一晩中眠り続けた洋祐は、翌日には無事に回復した。ベッドから起き上がり、リビングに行くと、世那が驚いた顔をする。
「ちょ、ちょっと、まだ寝てないと!」
「いや、だいぶ良くなったよ」
洋祐はそう言いながら、テーブルに座る。
「何か、食べられそう?」
「いや、どうだろうな……」
「……明日の仕事だけどさ」
世那がおずおずと話し出したので、洋祐はすぐに答える。
「明日は休むよ。ちょっとまだ無理はできないから」
洋祐の言葉を聞き、世那は胸をなで下ろす。
「うん、絶対それがいい」
無理して多くの人に心配や迷惑をかけるのは良くない。そのことを嫌というほど、学んだ。
無理なものは無理だと言っていいんだと分かったことで、これまでずっと背負い続けていた肩の荷が下りたような気がした。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。