暴風雨の中で

美律子は不安を抱えながらも、家の中で家族と一緒に過ごすことにしたが、台風が接近するにつれて風雨が激しくなり、とてつもない物音がしてきた。暴風雨のごう音に混じって、何か固いもの同士がぶつかるような衝撃音も聞こえた。もしも飛んできた看板やがれきが家に当たったら、ひび割れたマイホームはさらに傷を負ってしまうのではないか。そう思うと美律子は居ても立ってもいられなくなり、夫が引き留めるのも構わず嵐の中外へ飛び出した。

玄関アプローチから辺りを見渡すと、どこかの家の屋根瓦が剝がれて道路に落ちているのを見つけた。この様子では、うちの外壁も剝がれてしまうかもしれない。そう思ってひび割れを発見した場所へ駆け出そうとした美津子の腕を夫が強くつかんで叫んだ。

「美律子、危ないから中に戻って! 早く!」

「でも……! 壁が無事かどうか確認しないと!」

美律子は抵抗を示したが、夫は有無を言わさず家の中に引き戻した。ずぶぬれで家に入ってきた美津子を見て、息子も心配そうに声をかけてきた。

「お母さん、大丈夫?」

「う、うん……大丈夫よ。心配かけてごめんね」

美津子は慌てて息子にほほ笑みかけながら答えたが、まだ外の様子が気になっていた。そのことに気付いた夫は、美津子の手を取って優しく言った。

「たしかに家は大事だけど、それ以上に大事なのは家族の命だろ。万が一ケガで済まなかったら、どうするんだ? 」

「ごめんなさい、あなた。でも、もし家に何かあったらと思うと……」

雨にぬれて震えながら言うと、夫は美津子の顔をのぞき込んでさらに続けた。

「美津子? 家は壊れても直せるけど、人間は1度壊れると取り返しがつかないだろ。頼むから、台風が過ぎるまでは外へ出ないと約束してくれ」

「……分かった、約束するわ」

美律子は夫の言葉に一応うなずいたが、内心では家の様子を見に行きたくて仕方がなかった。