息子ロス
その翌日、朱美は家の掃除をしていた。就職して独り立ちした亮一の部屋に掃除機をかける。
引っ越してきたころは、いつまでもこの部屋で生活をしていくものだとばかり思っていたが、あっという間に時がたち、亮一は出て行ってしまった。いるときは食っては寝ているばかりで、ろくに家事も手伝わず遊び歩いているものだからうっとうしくも思ったが、いなくなってみると胸に穴が開いたような、肩の荷が下りたような不思議な気分になった。
掃除を一段落させて、朱美は居間に戻る。居間のソファでは功平が本を読んでいた。
「同居、断られちゃった」
朱美は隣りに座って口を開き、功平は本を閉じて顔を上げた。
「そうか。まあ、いきなり俺と住むのはやっぱり抵抗があるか」
「そういうんじゃないと思う。でも、理由はハッキリと教えてくれなかった」
功平は2階を見上げる。
「せっかく一部屋空いたって言うのにな」
「ほんと。いつもなら、なんかよく分からない曲をギターで弾いてる音が聞こえてきたのにね」
「あいつ、あっさり出て行ったからな」
「ほんとよ。もうちょっと、寂しがってくれてもいいのに」
親の心子知らずとはよく言ったものだ。
「俺からも、お義母(かあ)さんに聞いてみようか?」
「うん、そうしてくれると助かる。あの家もだいぶ古いからさ、いつまでもあそこに住まわせておくわけにはいかないんだよね」
穏やかにうなずく功平を、朱美は心強く思った。
しかし功平からの提案もむなしく、静枝が首を縦に振ることはなかった。それどころか静枝はますますかたくなに、朱美たちの提案を突っぱねるようになってしまった。