母への謝罪

翌朝、駆けつけた救助隊によって2人は無事に救助された。

ヘリに乗り、上から鷹ノ巣山を見下ろす。

昨晩のことを考えていた。どれだけ考えても到底納得することはできなかった。

しかし、再婚の理由に息子の将来を心配する気持ちが含まれていたのは事実だと受け止めなければならないのだろう。実際に亜紀のおかげで今の自分があるのも事実だ。

それでも博義がどうして半年という短い期間で再婚を踏み切れたのは、理解できない。

ただ、もしかしたら、自分にも子供が生まれたら、そのときには分かるようになるのかもしれない、とも思った。

けがは滑落したときの捻挫くらいだったが、念のためにと搬送された病院で、泣きはらした目の亜紀が待っていた。

「良かった、ほんとうに、良かった」

担架に乗せられている公平と博義の手を握りしめると、亜紀の目からは1度渇いた涙が再び流れ出した。

「ごめん、母さん」

いろいろな思いが詰まった謝罪だった。

病院のベッドから外を眺める。きれいな山々が並び立っていた。

山中で危険な目に遭ったのがうそのようだ。

遠くから見ているだけでは分からないように、近くにいただけでは分からないものもある。

どちらがいいとかではなく、最適の距離感を見つけるというのが良いのかもしれない。

だからもう2度と、博義と登山をすることはないだろう。

あんな経験はもうこりごりだ。

ただ、酒を飲むくらいならしてもいいかなと思った。

複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。