<前編のあらすじ>

富永さんは昇進したばかりで仕事に追われ、息子との時間も確保できないほど多忙な生活を送っていた。そんな中、父親の守さんが突然亡くなってしまう。葬儀まではなんとか時間を見つけて出席したものの、相続手続きは後回しにしてしまった。

父親の死から8カ月後、富永さんは別件で筆者と面会した際に、相続手続きに期限の10カ月が迫っていたことに気が付いた。慌てて手続きを始め、税理士の助けも借りてなんとか期限内に申告を完了させることができた。

無事に手続きを終えたかに見えた富永さんだったが、この後あることがきっかけで“ある重大な手続き”を忘れていたことが発覚する。

●前編:【「今は忙しいし…」40代男性が相続の手続きを放置。“期限ギリギリ”の対応が引き起こした大惨事】

発見された膨大な負債

案の定とも言うべきだろうか。具体的な時期と出来事は伏せるが、富永さんにある人物からコンタクトがあり、父である守さんにそこそこの額の借金があったことが発覚した。

守さんは亡くなる少し前に事業を廃業していたのだが、その一環で借り受けていたお金になるようだ。会社として借りていればよかったのだが個人として借りていたようで、その負債は当然富永さんに相続で移転する。

負債の額はおよそ3000万円。簡単に返せるわけではない。それもこれから子供の高校進学、大学進学と学費にお金がかかる現状だ。この3000万円という額は富永さんにとって金額以上のインパクトを与えている。とはいえ、先に述べた通り、相続放棄や限定承認は相続から3カ月以内だ。今更どうすることはできない。

富永さんから私に相談が来る。

「今からでも相続放棄や単純承認はできないのか!?」

「ネットで調べたら過去の裁判では認められたケースもあるみたいだぞ!?」

彼もバカではない。必要なことは最低限調べるだけの知識はある。だが、現実は甘くない。

確かに彼の言う通り、ごく一部の例外的なケースで相続から3カ月を経過して単純承認したとみなされていても、相続放棄や限定承認が認められたこともある。しかしそれは本当にごくごく一部の例外中の例外とも言えるケースだけだ。単に「負債の存在を知らなかった」という程度では認められないだろう。

そもそも国や行政を相手取って行う訴訟自体勝率が高くない。つまりは現実的にはもうどうしようもないのだ。富永さんには、仮に訴訟を起こしたとしても認められない可能性が高いことを伝えた。