その後義弟から聞いた妹夫婦の状況
数日後、事情を知った義弟がわが家を訪れ、「なつみが大変なことをしてしまって申し訳ありません」と頭を下げました。聞けば、義弟の勤務先の広告代理店はコロナ禍で開店休業状態になり、義弟は元同僚たちと独自に業務を継続してきましたが、ここ2~3年はほとんど収入もなく、貯蓄を切り崩して生活していたのだとか。
「コロナが開けてやっと落ち着いてきましたが、それまでは住宅ローンを払うだけで精いっぱい。仕事柄派手な生活をしてきましたから、なつみはあまりの落差の大きさに戸惑ったのだと思います。『お兄ちゃんの家は裕福でおいっ子は有名私立高に通っているのに、うちだけこんなに貧乏なのは恥ずかしい』と何度も切れられました」
お嬢さま育ちの妹はそうした状況に耐えられず、管理の甘い父のお金に目をつけたのでしょう。本来ならパートナーとして苦境に陥った義弟を支えるべき時期なのに……。妹の幼稚さ、身勝手さにはほとほとあきれました。
義弟は「なつみにお義父さんの遺産を受け取る資格はありません。相続放棄の手続きをさせます」と言い残して帰りました。
しかし私は、父の遺産は兄妹平等に分配したいと考えています。弁護士からはなつみが父に遺言書を書かせた一件が相続欠格事由(遺言の強要)に抵触する懸念も指摘されましたが、妻も「仕事にかまけてお義父さんのことをなつみさんに丸投げした私たちも悪い」と後悔していますし、何より、「なつみに何かあった時は援助してほしい」という父の言葉が頭を離れないからです。
※個人が特定されないよう事例を一部変更、再構成しています。