「遺言書は無効」を知った妹は?

弁護士から無効の報告を受けた際、妹は「何それ?」と怒りで体を震わせながら、「ここに書いてあることがお父さんの遺志なのに」と怒鳴り散らしました。

それにしても、私自身、まさかこのような展開になるとは予想もしていませんでした。生前の父からはむしろ逆のことを言われていたからです。「家や財産は長男のお前に引き継がせる。でも、なつみに何かあった時は援助してやってほしい」。戦中派の父は昔気質の考えの持ち主で、私を跡継ぎ息子と考えていたのでしょう。

妹は子供の頃からお父さん子で父にべったりでしたが、比較的裕福だった両親に蝶よ花よと育てられたこともあり、金銭に執着するタイプではなかったはずです。しかし、大事な父のこととあって意固地になっているのかもしれないと思いました。妹と骨肉の争いになるのは避けたかったので、先の弁護士に引き続き間に入ってもらうことにしました。

父の遺産を調査する中で判明した衝撃の事実

遺産分割協議書の作成に向けて父の遺産の調査などを行う際、弁護士に妹の意向をヒアリングしてもらったところ、妹は「兄は医者なのに何もしてくれず、私が最期まで父の面倒を見た。父の遺言はそういう私への感謝の気持ちだと思う」と話したそうです。

父のケアマネジャーさんから驚くべき話を聞かされたのは、そんな時でした。父の老人ホームに見舞いに訪れた妹は毎回居室のドアを閉め切り2人で話をしていたようなのですが、ある時、中に入ろうとしたスタッフがたまたま2人の会話を小耳に挟んでしまったようなのです。その際、妹は意識のぼんやりした父に「お父さん、遺言書いて。『なつみに全財産を譲る』って書いて」と迫っていたというのです。

弁護士も交えた打ち合わせの席で妹に事実関係を確認すると、妹は「そんなわけないじゃない! あのホームの人はうるさいことを言う私が嫌いだから、私を悪人に仕立てようとしてあることないこと言うのよ」と開き直りました。

しかし、事態を重んじた弁護士が父のお金の流れを精査すると、妹は、私が無関心なのをいいことに父の預金を自分の買い物用に使うなど、勝手放題していたことが分かったのです。