<前編のあらすじ>
母の死後、急速に衰えた父の面倒を献身的に見てくれた5歳下の妹のなつみに、最初のうちは妻ともども、心から感謝していました。勤務医の私たちはコロナ禍以降、休みも満足に取れない状態が続いていて、正直、父のケアまで手が回らなかったからです。
しかし、妹は次第に身勝手な振る舞いを始め、周囲を戸惑わせるようになりました。
父の入居する施設に不満を募らせていたのでやんわりなだめると、「お兄ちゃんは何もしないくせに」と怒りだし、親戚中に「兄は忙しいからと父の介護を私に丸投げしている」と触れ回る始末です。
●前編:【高齢の父親の世話をする妹が次第に暴走し始め…周囲を困惑させた「身勝手な言動の数々」】
妹が預かっていたという父の遺言書
極めつけは、父の死後に持ち出した遺言書をめぐる騒動です。
父の葬儀と初七日の法要を終えた後、妹がいきなり「お父さんから遺言を預かっている」と言い出しました。「お兄ちゃんとお義姉さんがいる前で開封したい」と事を急ぐ妹を引き止め、「大事なことだから専門家に入ってもらおう」と開業医の妻の父が懇意にしている弁護士に立ち会いを頼むことにしました。
結果的に、妹の持っていた遺言書は家庭裁判所の検認(亡くなった人が自筆の遺言書を残した場合、開封する前に裁判官により遺言書の内容や状態の確認を行う必要がある)の段階で無効であることが判明しました。
遺言書には、ミミズののたくったような字で「全財産をなつみに相続させる」と書いてありました。父が書いたものなのかもしれませんが、作成日時や押印もなく、成立の条件を満たさなかったのです。