結婚1周年の記念日には、都心に新設されたタワーマンションを購入した。ペアローンで借り入れは合計で1億円を超えたが、俺たち夫婦の収入なら余裕で返済していけるはずだった。
今思えば、あの頃の俺は全能感の塊だった。消化器外科内のライバルを蹴落とし、学会でも注目される存在になりつつあった。美しく聡明な妻に加え、仕事の愚痴やストレスを癒やす愛人もいる。
はるかな高みから下界を見下ろす47階の居室は、自分の権力と成功の象徴のように思えた。それがまさか、わずか2年でこんな結末を迎えることになろうとは。
「詳しいことは弁護士と話して」
そう言い捨てると、花林はそそくさと立ち上がった。
そして翌日、花林は本当に俺の下から去った。テーブルの上に、あの調査報告書を残して。
●恭一が追われた結婚生活の後始末とは?
後編:【「軽い気持ちで…」巨額の負債を抱えた外科医を追い詰めた“後妻の秘密”】
※この連載はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。