不動産は、居住用、投資用、相続・節税用とさまざまな目的で取り引きされていますが、多額の借金(ローン)を伴うことがほとんどであること、頻繁に経験するものではないこと、情報の非対称性の問題が大きいことから、「こんなはずではなかった」というケースが後を絶ちません。

この連載では、不動産にまつわる数々の相談に乗ってきた不動産鑑定士の福田伸二さんが、皆さんの「不動産リテラシー向上」に役立つ情報を事例と共にお届けしていきます。

不動産鑑定士・福田伸二さん

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「アパート経営で一切を失った」…なぜこんなことが起こる?

弊社には不動産投資を希望する方から、相続のご相談の方、新規のマイホーム購入を検討する方まで、さまざまなお客さまがご相談にいらっしゃいます。そういった方々にはまずはマーケットのご説明をさせていただいています。この連載でもマーケットの説明をしながら、個別の事例を紹介していきたいと思います。

直近でいえば、首都圏の不動産の価格は高騰し続けています。特に東京23区内では、すでに普通のサラリーマンでは手が出せないほど過熱しているのですが、買いたいあまり背伸びし過ぎているような方も多く見受けられます。

先日も公務員のご夫婦が新築マンション購入のご相談にいらっしゃいました。ご主人が年収600万円、奥さまが年収500万円。購入を検討している物件を見せていただいたら、1億1千万円なのです。確かに、世帯年収の属性からすれば、ローン審査は通ります。しかし、普通の人がこのクラスの物件を買ってしまったら、その後の10年、20年はローンを支払うだけの人生になってしまいます。不動産価格が上がり続ける中、「来年は買えないかもしれない」という焦りが、消費者のマインドを高嶺の花に向かわせています。

また、こういったケースもあります。どうしても先祖代々の土地を守りたいという方に不動産業者から「あなたの土地にアパートを建てると評価額がグッと下がり、資産がマイナスになって相続税がかかりませんよ」というシナリオを提案されます。そして、知識もノウハウもないまま、銀行から借り入れをしてアパートを建ててしまう。「こんなところでアパート経営なんて成り立つわけがない」という土地にも、アパートが建っている状況です。結果、経営がうまくいかなくなって、土地も建物も手放してしまう。子どもに土地を残すどころか、借金だけが残ってしまいます。こういう事例は、とても多いです。

銀行は担保があるので、お金を喜んで貸してくれます。しかし、不動産業者の利益分はもちろん、借り入れのお金も返さなくていけませんし、そこには金利も乗っています。そのお金をアパート経営しながら返していかなくてはいけないというのは、なかなか大変なことなのです。