すでに固まっていた離婚の意思

「あたし、アメリカに行きたいんだ。新しい術式を勉強してこようと思って」

夜中の1時にいきなり何を言い出すのかと苛立った。しかし、強く言い返すとまた不毛な口論になる。ここは下手に出ることにした。

「別に離婚しなくてもアメリカに行けるだろ? 何なら俺も一緒に行ってもいいし」

花林は大きくかぶりを振った。

「ううん、1人で行く。恭一からたんまり慰謝料をもらえば向こうで2~3年は何とか暮らしていけそうだから」

「お前、何言ってんだよ。第一、このマンションどうするんだよ。まだ買ってから2年しかたってない。ローンだってたくさん残ってるじゃないか」

「そんなの、浮気した恭一が責任取って何とかしてよ!」

軽いめまいを覚えてテーブルに手をついた。飲み過ぎたわけでもないのに、足元がぐらつく。


 

勤務先の病院で出会った花林と結婚して3年になる。将来を嘱望された外科医でモデル並みの容姿を持つ5歳下の花林は、俺には少しばかり出来過ぎたパートナーだ。ある時、なぜ俺と結婚したのかと尋ねてみたら、「恭一ならあたしを束縛しないから」と答えた。

花林は正直何を考えているのかよく分からないところがある。しかし、お互い多忙なスケジュールの合間を縫って花林の好きなモルディブやタヒチのリゾートに出掛けた時はそれなりに楽しそうに見えた。