他店にも及ぶ観光客トラブル
しかし香織たちの思いとは裏腹に、海外のお客さんたちは毎日のように店に押し寄せた。
その日は韓国からの観光客の人たちが来たのだが、注文で手間取ったこともあったが、帰り際に大声で怒られてしまった。何もそこまで怒らなくてもいいじゃないかと反論したくもなったが、母国語でまくし立てて怒る相手に、香織はただ平謝りをするしかなかった。
さらに溢れ返ったお客さんたちのせいで近隣にも迷惑がかかるようになってしまった。
向かいで土産物屋をやっている多田からそのことを直接注意されて発覚する。
「実は香織さんのところで買った団子をうちの店の中で食べる輩が最近多いんだ。注意はするんだけど全然聞いてくれなくてね。悪いがそっちでちゃんとお客さんたちに説明をしてもらいたい。餡がついた手で商品を触られると売り物として扱えなくなるし」
「……はあ。でも言葉は通じないですし」
「いや、そっちのお客さんなんだから、そっちでちゃんとしてもらわないと困るよ」
多田は眉をハの字にして嘆くように言ってくる。
外国人観光客の人たちに対応をしたいという気持ちは香織の中にも強くあった。翻訳アプリを駆使してメニュー表や注意書きを店の前に貼り出すくらいのことはやっている。しかし膨大な数のお客さんを裁くので精いっぱいで、それ以上の対応はできそうになかった。
「うちの商店街でもあちこちで串や包み紙のゴミが捨てられるようになってしまってね。そういうところもちゃんと注意してもらわないとさ」
香織はため息を飲み込んで頷くことしかできなかった。
ついに過労で倒れた茂人
コップにぎりぎりまで汲んだ水が表面張力で均衡を保っているような、そういう生活だった。だから、ほんの1滴分の衝撃が加わっただけでついに破綻した。
それは、厨房から響いた大きな物音だった。片づけの手を止めて、慌てて厨房に向かうと、鍋やトレイをひっくり返したままうつ伏せで床に倒れる茂人の姿があった。
「あ、あなた!」
香織は慌てて茂人に駆け寄り声をかけるが、茂人はぴくりとも反応をしなかった。
●SNSで人気となり外国人観光客が殺到するようになった団子屋。売上は伸びたものの、夫婦は対応に追われ疲弊していく。近隣からのクレームも相次ぎ、ついに過労で夫・茂人が倒れてしまった…… 後編【オーバーツーリズムによる過労で倒れた団子屋…休業中に商店街の人々から受け取った“意外な言葉”とは?】にて、詳細をお伝えします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
