店内ではいろいろな国の言葉が行き交っている。香織が今、相手にしているのはアメリカから来たお客さんだった。
慣れない英語とレジ周りに張った張り紙を指差しで確認しながら、なんとか注文を取り、厨房へと向かう。厨房では夫の茂人が汗をかきながら団子を炭火で焼いていたが、注文の量に全く追いついていない。外には多くの観光客が列をなして待っていた。
夫の茂人と2人で営んでいる団子屋は、商店街のなかにあり、代々地元民だけが知っているようなひっそりとした店だった。
潮目が変わったのは半年くらい前だ。円安の影響で近くの観光地に多くの外国人観光客が訪れるようになり、団子屋にもちらほらそういう人たちがやってくるようになった。
手軽で日本らしい甘味だから、団子を食べようと思う外国人が多かったのだろう。だが、問題はそれからだった。
たくさんいた観光客のなかに有名なインフルエンサーが混ざっていたらしく、団子屋の古めかしい外観やメニューの動画をSNS上で紹介したのだ(香織たちが紹介されたと気づいたのは、動画が公開されてからだいぶあとのことだった)。
たった1本の動画をきっかけに、香織たちを取り巻く状況は一変した。
数多くの観光客がこの店を目当てに訪れるようになり、もちろん売上だってこれまでの数倍に跳ね上がった。なにより、多くの人に自分たちの団子を食べてもらえるのは嬉しいことだった。
だが――。
