父が投資を恐れる理由
「……俺の周りでも投資をやっている人はいたんだよ。銀行とか証券会社に言われてな。みんな、老後のためとか子供のためにとかそんな理由で始めていた。でもリーマンショックが起きて、数百万なんて大金を失った人もいた。それだけ投資というのは危険なものなんだ。真面目にこつこつ働いていくほうがよっぽどいい」
克寿はしっかりとした説明をする。
「……まあ、父さんの言いたいことも分かるよ。でもねリスクが大きくない投資だってあるんだ」
明彦の言葉を克寿はじっと黙って聞いている。
「俺がやってるのはインデックス投資。投資信託っていう、いろんな企業の株が詰め合わせになった商品を買う方法なんだ。1つの企業とか1つの業界に絞るんじゃなくいろんな会社の株を買えば、リスクはゼロじゃないけど、かなり分散される。まあ、短期間で一攫千金とはいかないし、暴落時にはそれなりに減ることもあるけどね」
「……それなのに投資をする意味はあるの?」
恵実の質問に明彦はうなずく。
「少なくとも銀行に預けてるよりはお金は増えるよ。銀行の金利なんてほぼ0で置いておいても増えないし。長期で続ければ着実に資産を増やしていける可能性が高いんだ」
明彦の言葉には説得力があるように思った。少なくとも、先輩に誘われるがまま考えなしに投資に手を出しているわけではないことはよく分かった。
「ちなみに、投資って言ったって貯金丸ごと突っ込むようなことはしてないからね。積み立て投資で、月2万。それならちょっと飲み会を我慢すればいいだけの金額だし。俺だってさ、堅実な父さんのこと見て育ってきたんだから、父さんたちが思ってるようなギャンブルみたいな投資なんて絶対しないよ」
明彦は最後の言葉を発して照れくさそうに目線を落とす。同じように克寿も目線を明彦からそらした。その様子を端から見ていて「本当に似たもの親子だな」と恵実は微笑ましく思った。
「ほら、早くそばを食べないと。冷めたら美味しくないわよ」
恵実の言葉を聞き、明彦は食事を再開した。締め切った窓の向こうから、身を清めるような静謐さで除夜の鐘が響いた。
◇
年が明け。3人は初詣に出かけた。列に並び、お参りをし、3人でおみくじを引いた。恵実は中吉で金運の欄には「新しいことを始めよ」と書いてあった。それを見て投資の勉強をやってみようかなと恵実は思った。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
