崩れ落ちる夫への信頼

残された律子は座り込み、頭を抱えた。

勝手に質に入れられたこと、探してるときに嘘をつかれたこともショックだったが一番ショックだったのはネックレスを雑に扱われたことだった。

ネックレスがどういうものかを律子は琢也に話したことがあった。市場価値で言えば大した金額ではないのかもしれないが、律子にとってあのネックレスはお金には換えられないものがあった。

放心状態でなんとか晩ご飯を温めた律子は、塾から帰ってきた博樹には気取られないようにしながらなんとか普段通りに過ごした。

   ◇

給料日を待ち、律子は琢也が利用していた質屋を訪れてネックレスを引き取った。時計に関しては期限が過ぎて質流れになってしまったと説明をされた。

期限内に引き取るつもりだったとか言ってたのもその場しのぎの嘘だったのだろう。こちらが気付かなければそのままにするつもりだったのだ。

手元に戻ってきたネックレスを律子はぎゅっと抱き寄せる。戻ってきた安堵感とともに勝手に質に入れた琢也への怒りが蘇ってくる。

もし二度と戻ってこないとなったら、自分がどうなっていたか想像ができなかった。

質屋を出た律子はそのまま近くにあった法律事務所に入り、ほとんど勢いに任せて離婚に関する相談をした。昨日の喧嘩で律子の中で琢也はもう信頼を置ける人間ではなくなった。

相談を終えて律子は家に帰る。化粧台の引き出しには、役所でもらっておいた離婚届を忍ばせてある。

晩ご飯の支度をしながらこれからは着実に離婚に向けての準備をしようと考えた。そして離婚の話をするときはあのネックレスを必ずつけようと心に誓った。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。