複雑なさつきの思い

由利はさつきの6歳下で現在、28歳だ。つまりもう立派な大人なのだ。それなのにちょっと折り返しがないくらいで何を心配してるんだ。過保護すぎる母にさつきは苛立ちを覚える。

「そうなんだ。忙しいんじゃないの? 由利も仕事をしてるんでしょ? アパレルだっけ」

「それはそうなんだろうけどさ……。ねえちょっと由利の様子を見に行ってくれない? あなたたち近くに住んでるんでしょ?」

「ええ? なんでそんなことをしないといけないのよ?」

「お姉ちゃんでしょ? 妹が心配じゃないの?」

母の口からまたお姉ちゃんでしょという言葉が出てきた。まさか30を越えてまでそんなことを言われるとは。

実家で一緒に暮らしていたときはしょっちゅう、この言葉を聞かされていた。姉という立場を心の底から嫌悪したこともあったが、今はもう何も感じなくなっている。諦めたという気持ちが近いのだろう。

「行かないとダメなの?」

「お願い。ちょっと様子を見て連絡をくれるように言ってくれればいいだけだから」

もうタスクが1つ追加されている。これ以上粘ると、身の回りの世話までお願いされそうだ。

「……分かったよ。それじゃ今週の休みに行ってみるから」

「お願いよ。すぐに行ってあげてね」

さつきはスマホのスケジュールを確認する。

土曜は大学時代の友達とランチに行くことになっていて、日曜は1人で気になっていた映画を見に行く予定だった。土曜の約束を断るなんてできないから、日曜の映画をキャンセルするしかない。チケットはもう取ってあったのだが仕方ない。さつきは映画の予定を削除する。1800円のチケット代が無駄になってしまった。

いつもこうだ。由利が絡むとこっちが何かしらの犠牲を払わないといけなくなる。

小学生のころ、休みの日に友達と遊びに行こうとしても由利が泣いて構ってくれと言うから相手をさせられたこともある。自分が勉強を真面目に頑張って大学に進学したことよりも、由利が高校の留年を回避して卒業できたことを両親は喜んでいた。

由利のせいで自分には不条理ばかりが降りかかると、さつきはずっと感じていた。どんなときでもへらついた笑顔を見せて親に気に入られていた由利のことが、さつきは嫌いだった。