会社から帰宅したさつきは手に提げておいたエコバッグを台所に置いて購入したものを冷蔵庫に入れる。
手狭な1Kで1人暮らしをしているがさつきはこの家を気に入っていた。銀行勤めのさつきの給料であればもう少し良いところに住めるのだが、節約と利便性を兼ねてこの部屋にしていた。
冷蔵庫に食材を入れ終わると、家計簿アプリを起動しレシートの写真を撮る。これだけで支出額を全て記録してくれるのでとても重宝している。
買い物、家計簿記録と決めておいたタスクを消化し終えて、さつきは部屋着に着替えて晩ご飯の調理を開始した。鮭の塩焼きを作ろうと思い、フライパンを温めた。すると携帯が震えた。
見ると画面には母の名前が表示されていた。面倒くさいと思いながらも無視することはできないのでコンロの火を消して携帯を耳に当てた。
「さつき、今電話大丈夫?」
「うん。どうかしたの?」
「体調はどう? 最近、ずーっと暑いでしょ? 夏バテとかはしてない?」
さつきはローテブルの下に敷いてあるカーペットの上に腰を下ろす。
「大丈夫だよ。それで何かあった?」
本題に入る前に母は必ず体調を聞いてきた。もう30歳を超えているというのに、母の過保護な性分はいつまで経っても変わらない。
「最近さ、由利と会った?」
「会ってないよ。なんで?」
「それがね、電話をこっちからかけるんだけど折り返しがないのよ」
母に気づかれないようにため息をつく。
