佑輔の本当の気持ちとは…

「俺さやっぱり野球が好きで技術書とか動画でバッティングとか守備の解説とかをずっと見てるんだ。それでさ、コーチとか分析とかそっちのほうが俺に合ってるんじゃないかって思うようになったんだよ」

佑輔の説明に佳寿子は目を丸くした。そんなことを考えているなんて全く思いもつかなかったのだ。

「あなた、裏方になるっていうこと?」

「もちろん皆と一緒に練習はするよ。でも下級生に教えたりとかチームを強くするためにどうしたらいいとかを考える方に時間を使っていきたいんだ」

監督が佑輔をかばうように割り込んだ。

「実は私はこの話を佑輔くんから聞いてたんです。彼の野球に対する愛情や知識は素晴らしいものがあるし、他のチームメイトからの信頼も厚い。だったら彼にそのような役割を与えたほうがチームはもっと良くなるのではないかなと思ったんです」

「そうだったんですか……」

「ですが、その後はやっぱりレギュラーを目指すと言って、目の色を変えて練習をするようになりました。私は疑問を持って話を聞いてみたらあなたと相談して決めたことだと言ってたのでね。まあその辺りはもう一度2人で話し合ったほうがいいと思います。どちらの選択をしても私は佑輔くんをサポートするつもりではありますから」

それだけ言い残して監督は病室を出て行ってしまった。残された佳寿子は佑輔に声をかける。

「そんな風に考えてたのね……」

「……うん。ちゃんと説明できてなくてゴメン。やっぱりお母さんにいろいろと迷惑をかけてたから、ちゃんとレギュラーを目指して頑張らないとダメだって思ってさ」

申し訳なさそうに語る佑輔の言葉が胸に刺さった。

自分のせいで佑輔は気持ちを押し殺してしまったのだ。仕事でストレスを溜め込んでいて、勝手に苛立ち佑輔の話をちゃんと聞こうとしてなかった。自分の思うがままに佑輔をコントロールしようとしてしまった。そのためにお金の話題なんて卑怯な手段まで使った。自分は母親失格だ。

そう思い知った佳寿子はゆっくりと頭を下げた。

「……本当にごめんなさい。あなたのことを私は全然考えてあげられなかった」

「え、いや、母さんは間違ってないよ……。逃げてるって言われたとき、自分でもそうだなって思ったところはあったから」

「……ううん。大事なのはあなたの気持ちよ。あなたがやりたいと思ったことをやるべき。それを邪魔するなんてあってはいけないわ」

佑輔は佳寿子の言葉に驚く。

「え、じゃ、じゃあ俺、コーチとか分析のほうに時間を使って良いの?」

「もちろんよ。あなたならきっとチームの役に立てる存在になれると思うわ」

佳寿子がそう言うと佑輔は照れくさそうに笑った。その笑顔を見られるだけで十分だと佳寿子は思った。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。