監督からの思わぬ言葉にショック

「お気持ちは大変ありがたいのですが、あまりご家庭で過度な練習をされるのは……」

「……え?」

「練習メニューも聞いております。今は秋の大会も終わって、冬期練習に入っていますから、無理をするといつか壊れてしまいますよ……」

監督は直接的な表現はしなかったが、今回の熱中症の原因が佳寿子にあるというのが伝わってきた。

「で、ですが私は佑輔にレギュラーを取ってほしくて……」

「それは分かります。ですがそれを佑輔くんが望んでいるのでしょうか?」

「……何を仰ってるんですか?」

スポーツをする人間はみんな試合に勝ちたいと思っている。そのためにキツい練習をしているのだ。それ以外に目的などあるわけがない。

「……そこら辺は佑輔くんが起きてから話をしましょう。ただ野球というのはいろいろな関わり方があるというのを分かっていてほしいです」

そこから監督は何も言わなくなり、佳寿子も何も言い返さなかった。

   ◇

佑輔が目を覚ました。最初は置かれている状況を理解できないようだったが、ゆっくりと佳寿子が説明をすると分かってくれた。

「監督、申し訳ありません。ご迷惑をおかけしました」

佑輔はベッドに体だけを起こした状態で頭を下げた。

「いやそんなのは気にしないでくれ。お前が練習前から体調悪そうにしていたのに、それでも休ませなかったこちらに責任があるんだ」

「ごめんね、母さんにも心配をかけて」

「本当に驚いた……。でも何もなくて本当に良かったわ」

そこで監督が佑輔に話しかける。

「佑輔、お前が今思っていることをきちんと伝えた方がいいんじゃないか? 話せばきっと分かってくれると思うぞ」監督の言葉に佑輔は俯いた。さっき監督が言いかけていた件だと佳寿子はすぐに気がついた。

「……佑輔、話してくれる?」

「前にさ選手を諦めようと思ってるって言っただろ?」

「ええ、聞いたわ」

「周りの皆にレギュラー争いで勝てそうもないっていうのも理由ではあるんだけどさ、でも前向きな考えではあるんだよね」

「どういうこと?」