<前編のあらすじ>
高校の野球部でレギュラー入りが期待されていた息子の佑輔が、ベンチ入りすら諦めるような弱気な発言をするようになり、シングルマザーの佳寿子は別れた夫の態度と重なり、苛立ちを覚える。
佳寿子は、佑輔を奮起させるため、「200万円もの大金を費やした」「それは単なる逃げだ」とプレッシャーをかけ、感情的に佑輔を責め立てる。その結果、佑輔は半ば強制される形で猛練習を始めることに。
しかし、猛暑が続く10月の休日、野球部の監督から佑輔が練習中に倒れ、病院に搬送されたという衝撃の知らせを聞くのだった。
●【前編】「200万円使ったんだよ!」母の金銭的なプレッシャーに追い詰められた高校球児を襲った突然の悲劇とは…
佑輔の倒れた原因は熱中症
病院に着いて案内された病室のベッドで、佑輔は点滴を受けて寝ていた。その穏やかな顔を見て佳寿子は大きく息をついた。
病室の外では野球部の監督が待っていた。一緒に病院に付き添い、佳寿子が来るまで待っていてくれたのだ。
佳寿子の姿を見るや、監督はゆっくりと頭を下げた。
「大変申し訳ありませんでした。医師の話では軽い熱中症ということらしいです。そして点滴を打って目が覚めたら帰宅していいようです」
「……そうですか」
「私が見ておきながらこのようなことになって本当に申し訳ありません」
佳寿子は首を横に振る。
「いえ、大したことないんですし、そんな謝らないでください」
監督は前に組んだ手をほどきかけて、迷うような表情を見せる。何かまだ言い足りないことがあるのかもしれないと佳寿子は言葉を待った。
やがて監督は申し訳なさそうにゆっくりと口を開いた。
「……実は佑輔くんはここ最近とても練習を頑張るようになってまして」
「そうですか」
それが熱中症の原因なのかも知れない。そう思いつつも言いつけを守って頑張っていた佑輔を誇らしくも思った。
「それと、家で自主トレをやっているということも話は聞いてます」
「はい。レギュラーが取れるように頑張らせているんです」
佳寿子はこうして少しでも評価を上げられればと思い、監督に伝える。しかし監督は難しい顔をした。