涙を浮かべた息子のけなげな姿

佳乃から自分のインドへの出張中に樹と話をしてほしいと頼まれ、彰乃ちゃんに不信がられながらも樹の誕生日は仕事をやり繰りして休暇を取得し、樹と2人だけで過ごしました。

樹が行きたがっていた体験型テーマパークへ連れていき、誕生日プレゼントとして樹の好きな戦隊ヒーローの玩具を買い与えました。

帰宅してケーキを食べて誕生日を祝った後、それとなく「パパとママ、別々に暮らすことになりそうなんだけど」と切り出すと、なんと、樹はじっと私の顔を見て「僕はパパと一緒だよね?」と言ったのです。

「彰乃ちゃんと毎日会えなくなるけど、いいのか? じぃじとばぁばの所にも行けなくなるぞ」

樹の目にみるみる涙が浮かびました。それでも樹は、「うん」と大きくうなずきました。

ありがとう、樹。

けなげな姿に、見ている親の方が泣きたくなりました。

しかし、それで私も心が決まりました。

破格の慰謝料は義実家への“手切れ金”

佳乃からは固辞されましたが、慰謝料として1000万円を払うと申し出たのは私です。彰乃ちゃんや義両親へのささやかな御礼のつもりだと話したら、佳乃は「ちょっと多過ぎない?」と苦笑しながら、そのまま義両親の口座に振り込むと話していました。

彰乃ちゃんには交通費や樹のシッター代としてそれなりの金額を渡していましたから、正直言えば、ささやかな御礼というよりはむしろ“手切れ金”です。

樹を連れて挨拶に出向いた義実家では「佳乃の問題なのに過分な気遣いをいただいてしまって」と恐縮しきりでしたが、佳乃の打ち明け話を聞いた後では、「この人たちと縁が切れるのなら安いものだ」くらいの気持ちでした。

そうした中で、私が新しい職場や樹との生活の拠点を探す間、樹の面倒を見てくれた彰乃ちゃんには感謝しかありません。「急にお迎えが必要になったら、遠慮なく声をかけてくださいね」という言葉に嘘はなく、彰乃ちゃん自身にも早く幸せな家庭を築いてほしいと心から思いました。

もちろん、パートナーだった佳乃もです。「樹に会いたくなったらいつでも連絡してくれ」とメッセージを送りましたが、佳乃の性格からして自分から連絡してくることはなさそうです。樹がある程度の年齢になったら、樹自身が会いに行くことになるのでしょう。

転職による大幅減収に加え、慣れないシンパパ(シングルファーザー)生活は誤算や失敗の嵐です。しかし、慰謝料も含めて自分が出した“解”に後悔はありません。

※プライバシー保護のため、事例内容に一部変更を加えています。