海外出張の予定をめぐり壮絶な口論に

そんな矢先に同僚から、佳乃が樹の4歳の誕生日の前後に半月近いインド出張を入れていることを聞かされたのです。佳乃と同じチームの同僚は樹と同時期に次男を授かっていて、樹の誕生日を覚えていたようです。

同僚は最初こそ「俺らは助かるけど、悪いな」と低姿勢でしたが、勘のいい男で私の対応を見て感じるところがあったらしく、「まさかお前、別れ話が進行中ってことはないよな?」と探りを入れてきました。

「あるわけないだろ」と笑い飛ばしましたが、不自然な印象を与えたことでしょう。

その日、彰乃ちゃんが帰宅した後に佳乃にインド出張の件を問いただすと、「クライアントの指名だから」と澄ました顔です。

「半月も家を空けるなら、ひと言相談があってもよくないか? 彰乃ちゃんには話したのか?」と問い詰めると、佳乃はなんと「樹の誕生日、私がいない方がいいでしょ?」と言ってのけました。

その後は佳乃と結婚してから初めてと言っていいほどの壮絶な口論になりました。佳乃は恐ろしく弁の立つタイプです。状況的にはどう見ても私に分があるはずですが、幾度となく言い含められそうになりました。

それでも、普段は冷静そのものの佳乃がいつになく感情を高ぶらせたおかげで、佳乃の本音や、とんでもない裏事情を引き出すことができたのですから、私にとっては収穫でした。