妻が語った義両親の思惑
佳乃によると、佳乃の両親は私が佳乃と別れて彰乃ちゃんと再婚することを望んでいるようです。義両親にとって初孫の樹は大事な“跡取り候補”であり、給食ビジネスの縮小などで経営する生鮮食料品製造会社の業績が芳しくない中、M&Aなどを手掛ける私に利用価値を見出しているのではないかということでした。
「瞬は『俺は男兄弟だから正直、女の子が良かった』って言ってたよね。彰乃なら喜んで生んでくれると思うよ。瞬のこと、結構好きそうだから」
佳乃がさらりと言った言葉に慄然としました。彰乃ちゃんはいい子だとは思いますが、そんな目で見たことは一度としてなかったからです。それよりも、これまでは感謝の念しかなかった義両親への不信感が募りました。
樹や私のことを一体何だと思っているのか。
樹がこの先どういう人生を歩んでいくのか分かりませんが、その決断を下すのは樹自身ですし、少なくとも私は、樹を義実家の跡取りにするつもりは微塵もありません。
このままの状態だと樹も私も、義両親の仕掛けた巨大な蜘蛛の巣にからめ取られてしまうのではないかという強い危機感を抱くようになりました。
義両親の思惑を知って、佳乃が冷めた態度の裏に深い孤独や疎外感を抱え込んでいることが分かりました。
パートナーとしてそんな佳乃に寄り添えなかったことは申し訳なく思いました。しかし、こうなってしまうと、私たちが出せるソリューションは1つしかありません。
幸い、佳乃は冷静で、親権は放棄するつもりだと言ってくれました。私も樹と暮らしていくために転職を考えるようになりました。
問題は樹でした。物心ついた頃から彰乃ちゃんや義両親と多くの時間を過ごしてきた樹が、私たちが出した結論をどう思うのか。