嚙み合わない夫からのプレゼントは?
その夜、玄関のドアが開く音がして、雅美は振り返った。孝之が仕事帰りのスーツ姿で立っており、手には小さな紙袋を提げていた。どこか誇らしげな笑みを浮かべている。
「ほら、これ見てよ」
ダイニングテーブルに袋を置き、中から小さなケースを取り出す孝之。蓋を開けると、中にはキラキラと光を放つ、大きなリボンのアクセサリーが収まっていた。有名なブランドの商品だ。
「学芸会、こういうのが必要なんだろ?」
孝之は胸を張り、自信たっぷりに言った。
雅美は一瞬言葉を失った。
もしもこのアクセサリーを使うなら、雅美が施したアレンジの一部は取り外さなければならないだろう。そうしないとバランスが悪い。昼間、他の母親たちに褒めてもらった温かい言葉が、心の中でまだやわらかく残っている。そこへ突然持ち込まれた冷たい輝きに、戸惑いが生じた。
「パパ、なにそれ?」
リビングにいたくるみが駆け寄り、ケースの中を覗き込む。小さな目をまんまるにして、首をかしげた。
「可愛いだろう? くるみの学芸会の衣装にぴったりだと思ってね。これを付ければ、きっと先生や友達にも褒められるぞ」
孝之は得意げに言いながら、くるみにアクセサリーを差し出した。だがくるみは、ぱっと笑顔を広げて首を横に振った。
「ううん、ママのつくってくれたやつのほうがいい!」
その言葉に、孝之の動きが止まった。意外そうに目を見開き、次の瞬間、残念そうに眉を下げて溜め息をついた。
「……そうか。まあ、くるみがそう言うなら仕方ないな」
雅美は思わずくすりと笑いそうになるのを堪えながら、心の奥で静かに溜飲を下げた。
夜な夜な慣れない針仕事をして作った衣装。娘がそれを本当に気に入ってくれたのだと思うと、胸がじんわりと熱くなる。
孝之は肩を落として、ケースをそっと閉じた。いつもより心なしか小さなその背中は、見栄や世間体のために張りつめていた虚勢が、少し剥がれ落ちているようだった。
雅美が孝之のためにキッチンで夕食を温め直していると、くるみが遠慮がちに言った。
「ねえパパ、そのリボンもらっていい?」
「ああ、もちろんいいよ。くるみ、やっぱりこっちが良くなった?」
「ううん、むにちゃんにつけてあげようと思って」
そう言ってくるみは、お気に入りのぬいぐるみを掲げた。
「そ、そうか……むにちゃんのか……」
苦笑しながらくるみにアクセサリーを渡す孝之を見て、今度こそ雅美は吹き出した。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。