手作りの衣装に娘の笑顔

幼稚園の広いホールには、色とりどりの衣装を着た子どもたちの姿が集まり、にぎやかな笑い声が響いていた。

学芸会の衣装合わせの日。

壁際の大きな鏡の前には行列ができ、順番を待つ子どもたちはそわそわと落ち着かない。雅美は緊張した面持ちで、くるみの手を握っていた。

紙袋に入れて持参した衣装を取り出し、娘に着せると、彼女の表情はぱっと明るくなった。胸元に刺繍した小花の模様が、淡いピンクの布に映えている。袖口のビーズが光を受けてきらりと輝き、くるみは何度も腕を動かしてはそのきらめきを確かめていた。

「ママ、かわいい?」

鏡の前に立ったくるみが、振り向いて雅美に問いかける。

「もちろんよ。世界で一番かわいい」

そう答えると、くるみは目を細めて嬉しそうに笑った。

頬がほんのり赤らんで、その姿に胸がじんと熱くなる。夜な夜な針を動かした日々が、ようやくこの瞬間に報われたのだと思えた。

すると、意外なことに周囲の保護者たちがざわめき始めた。

「まあ、これ手作り? すごく丁寧ね」

「既製品かと思ったわ。こんなに細かい刺繍、なかなかできないでしょう」

「心がこもってるのが伝わるわね」

口々にかけられる言葉に、頬が熱くなる。雅美はただ「ありがとうございます」と小さく頭を下げるしかなかった。

その中で、1人の母親が小声でつぶやいた。

「正直ね、毎年お金をかけてブランドの小物を用意するのが当然みたいな空気、ちょっと疲れてたの。だから、くるみちゃんママみたいな工夫って素敵だと思う」

その言葉に、雅美は驚きながらも大きく頷いた。自分だけが流れに逆らっているように思っていたが、同じように感じていた人がいたのだと知り、胸がふわりと軽くなった。

くるみは鏡の前でくるりと一回転し、自分の姿を確かめる。ひらひらと広がる布を見て、声を上げて笑った。ホールに響く笑い声に、雅美の目には思わず涙がにじんだ。

――この笑顔のために針を動かしたのだと、改めて確信した。

「ママがつくってくれたの、だいすき」

そう言って雅美にぎゅっと抱きついてきたくるみの温もりに、心が満ちていく。

どんなブランドのアクセサリーよりも、プロの手によるアレンジよりも、その服を着たくるみの笑顔はずっと眩しく輝いていた。

雅美は誇らしい気持ちで、娘を優しく抱きしめ返した。