推しのスキャンダルが発覚

夕食を終えて、娘と並んでソファに腰を下ろす。たまたま流れていた海外ドラマを、英子と來未は肩を並べて観ていた。画面の中では刑事と犯人が知恵比べをしているが、正直内容はつまらない。ただ、こうして久しぶりに娘と同じ時間を過ごせていることは心地よかった。

ところが突然、來未が手にしていたスマホを凝視し、大きな声を上げた。

「えっ、ウソでしょ!? なんで今なの!」

「どうかしたの?」

「これ見てよ、ママ!」

言われるがまま英子は画面を覗き込む。するとそこには來未の推しアイドルの顔が、女性タレントと並んで写っている。記事の見出しには「熱愛発覚」と大きく書かれていた。

「來未……これって」

「違う、絶対違うって! だって、たいちゃんがそんなことするわけないもん!」

娘は必死にスクロールしながら否定の言葉を繰り返す。記事の信憑性は定かではないが、來未にとっては一大事らしい。英子は何も言えず、ただ黙って横に座っていた。

その数日後にはさらに状況が悪化した。

アイドル本人がSNSで発信したメッセージが、相手女性との関係を匂わせるように受け取られ、ファンの間で炎上したのだ。

來未は画面に釘付けになり、推しを擁護する書き込みを繰り返した。鬼気迫る表情でスマホを握りしめ、時折声を荒げる。

「みんなひどい! ちょっとしたことで叩きすぎ!」

涙混じりのその声は、次第に怒りに変わっていった。

「こんなコメントする人、最低! なんでたいちゃんを信じないの!」

來未の声には、自分に言い聞かせようとするような悲痛さが滲んでいた。

他人の人生に、どうしてここまで心を揺さぶられるのだろう。呆れる気持ちが先に立つが、スマホ片手に一喜一憂する娘の姿を見ると、結局心配の方が大きかった。