自宅での秘密の逢瀬のはずが…
輝昭が出張に出かけた日の夜、珍しく家にいる美優の前には南の姿があった。
「社長、本当にいいんですか? 家はさすがにマズくないですかね?」
「別にいいのよ。あの人は出張だって言ってたし。それに万が一バレたってあの人には何もできやしないし。それと、2人っきりのときは社長じゃないでしょ?」
「すいません、美優さん」
南のはにかみ交じりの返事を聞き、満足げな美優は2つのグラスにワインを注いだ。
「話は聞いてますけど、あの人と何で結婚したんですか? 全く美優さんとは合わない感じですよね」
「若気の至りってやつよ。あのときは30までには結婚とか考えて、選択を間違えたのかも」
南と不倫関係になったのは半年くらい前のこと。顔も整っていて気が利くし、仕事ができて野心のある南は美優の好みだった。大きな案件のプレゼンが終わり、2人で飲んでいたのが始まりで、どちらからともなく不倫関係になり、それからというもの、こうして忙しい仕事の合間を縫いながら逢瀬を重ねている。
2人でまったりとした時間を過ごしていると、いきなり鍵の開く音がした。
美優は表情を引きつらせる。隣にいる南も目を見開き、不安そうな顔で美優を見ていた。
息をいくら殺したところで意味はなく、まもなくくたびれた様子の輝昭が部屋に入ってきた。輝昭は美優と南を見て固まり、そしてうなだれた。
「……なんだよこれは?」
「出張じゃなかったの……?」
「日程がずれたって送っただろ」
そこで美優はスマホに目を向ける。仕事とは関係のないメッセージアプリのチェックを怠っていた。
「なんなんだよ、これは」
輝昭の声が響いた。美優も南も答えるための言葉を――この場を乗り切るための言い訳を、見つけられなかった。
●輝昭への不満を募らせ若い部下との恋に走ったる経営者妻の美優。しかし、不倫現場で輝昭と知合わせることに…… 後編【キャリアも家庭も失った女社長の末路とは…最後に心を揺さぶったのは夫からの一言】にて、詳細をお伝えします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。