美優がオフィスビルを出ると、目の前に大きな黒い車が駐車してあった。
美優の姿を確認すると南は運転席から飛び出してきて、すぐに後部座席のドアを開ける。すぐに乗り込み美優は時計を確認する。思ったよりも打ち合わせが長引いてしまっていた。
南は運転席に乗り込みすぐに車を発進させる。株主との会食に遅れるなんてことはあってはいけない。
「気持ち急ぎ目でお願いできる」
「はい、分かりました」
こんなに忙しいものだとは思わなかった。
会社を経営しバリバリ働く美優
昔からコスメが好きだったこともあり、個人的に輸入をして通販サイトで販売をしたりしていた。だが、会社の人間関係で悩んでいたこともあって、35歳で一念発起して会社を立ち上げた。
正直、40歳を迎えるまではずっと苦しい状態だった。なかなか黒字転換ができずにいた。ただ去年から美優が好んで仕入れていた韓国ブランドのコスメが日本で流行りだした。美優の会社がほぼ独占で国内では取り扱っていたこともあり、会社の売上は一気に上がった。
さらに41歳を迎えた今年、長年の夢だったプライベードブランドの開発も無事にお披露目を終えたところだ。
「例のリップ、会社に問い合わせが殺到してますよ。いろいろな会社やデパートが取り扱わせてほしいって言ってるみたいです」
南は興奮気味に話をしてくる。そんな南の様子に美優は目を細める。
28歳になったばかりの若い社員が目を輝かせながら自社のことを話しているのがとても嬉しかった。会社の組織作りが順調だと実感する。
「そうね。まあでもこれからが踏ん張りどころよね。社員のみんなも大変だとは思うけど」
「いいえ、俺たちは全員やる気に満ちあふれていますから」
美優は軽く伸びをして大きく息をつく。
「ありがとう。私も頑張らなくちゃ」
「社長、それで来月の韓国への出張の件なんですけど」
「うん。詳しい日程は決まった?」
「はい、口頭でお伝えしてよろしいですか?」
「大丈夫よ」
美優は南から聞かされたスケジュールをスマホに打ち込んでいく。スケジュールアプリには分刻みのスケジュールが記載されている。
とても忙しい毎日だ。しかしこれが自分が望んだ生活なのだと実感していた。