少しずつ母の手を離れていく…娘に

夏の陽射しが真上から降り注ぐ中、医療脱毛のカウンセリングを終えた洋子たちは駅前のカフェに避難するように入った。冷房の涼しさにほっと息をつき、洋子は窓際の席に腰を下ろした。

「やっぱり、サロンとクリニックだと全然違うね」アイスティをストローでくるくる回しながら、夏美が口を開く。「仕組みも効果も、説明聞いてよく分かった。今日来てよかったよ」

洋子はうなずき、カップの表面を流れる水滴を指先で拭った。

「そうね。ちゃんと説明してもらえると安心できるわよね」

「うん……でも、もう1、2カ所くらい別のクリニックの話も聞いてから決めようかな」

その言葉に、心の中で小さく微笑む。

「いいと思う。大事なことだから、ちゃんと比べて決めなさい」

そう静かに肯定すると、夏美は少し驚いたように目を見開き、それから照れくさそうに笑った。しばらく、氷の音と周囲のざわめきが会話の間を埋めた。ふと、夏美がグラスを置き、前を向いたまま言う。

「ねえ、お母さん。夏休みの後半、大学の友達と合宿免許に行っていい?」

「合宿免許?」

洋子は反射的に聞き返す。合宿となれば、2週間は家を空けることになるだろう。

「うん、みんなで一緒に行くと安いし、楽しそうだし。旅行も兼ねて行こうって話になってるの」

夏美は少し遠慮がちに説明する。

彼女の話に耳を傾けながら、じわりと寂しさが広がった。

つい昨日まで、この子の小さな手を引いて買い物に行っていたような気がするのに。

ゆっくりと瞬きをして、洋子は微笑んで言った。

「……そう。行ってらっしゃい」

「いいの?」

「ええ、その代わりちゃんと体調に気をつけて、無理しないでね」

夏美はほっとしたように笑った。

「ありがとう」

カフェの外では、強い日差しに白く輝く道路を、自転車に乗った学生たちが通り過ぎていく。

その景色を眺めながら、洋子は自分の中で一つの区切りを感じていた。

娘は少しずつ、確かに洋子の手を離れていく。

寂しさはある。

でも、その背中を送り出すのが洋子の役目なのだ。

視線を落とすと、グラスの中の氷が夏の光を受けてきらめいていた。