<前編のあらすじ>
共働きのめぐみは娘の真希の世話を義母の佳保里にたびたび頼んでいた。夏休みのある日、佳保里と二人でプールに出掛けた真希に異変が。両目が真っ赤に充血して「かゆい」と涙ぐんでいるのだ。
急いで夜間診療へ連れて行った結果、真希の目は結膜炎と判明。既に帰宅していた佳保里に後日、ことの顛末を電話でつたえためぐみだが、二人は激しい口論に。
気まずいまま突入した盆休み、佳保里が待つ義実家に帰省しなければならないめぐみは憂鬱で仕方がなかったが…。
●前編:「大変、夜間診療に連れて行かなきゃ!」夏のプールで義母がまさかの“やらかし” 娘に起こった異変に嫁がとった驚きの行動
誰の味方でもない夫
ハンドルを握る夫の横で、めぐみは窓の外に目を向けながら、内心、胃が重くなるような感覚を抱えていた。
お盆休みを利用して義母の家へ向かう道。先日の電話での口論以来、初めて顔を合わせる。何事もなかったかのように振る舞える自信はないが、夫や真希の手前、ぎくしゃくするわけにもいかない。
「……大丈夫かな。雰囲気、悪くなったりしないといいけど」
「大丈夫だって。普通にしてればいいよ」
助手席から夫がぼそりと呟く。
夫は、いつもそうやって中立でいたがる。誰の味方でもなく、できれば波風を立てずに済ませたいと願っているような人だ。そんな夫が、めぐみは少しだけ、うらやましいと思う。
「そうだね……」
義母の家に到着すると、真希は車を降りるなり、「おばあちゃーん!」と元気に駆け出していった。ちょうど庭で水やりをしていた義母はその声に気づくと振り返り、満面の笑みを浮かべて両手を広げた。
「まあ、真希ちゃん! よく来たわねぇ!」
何もかもが和やかで、ほっとした。その瞬間だけは。
「こんにちは……おじゃまします」
めぐみが少し遅れて頭を下げると、義母は一瞬、目を細めた。
「……いらっしゃい。暑かったでしょ。さ、入って入って。スイカ、冷やしてあるのよ」
義母の声はあくまで明るく、努めて平静を装っているようにも見えた。めぐみも同じように、表情を整えて「ありがとうございます」と笑った。それが、今できる精一杯だった。