無趣味で迎えた老後に感じていた虚無感
「老後は充実の日々を過ごせるものだと思っていた。そのために仕事を頑張っていたし、貯金だってした。なのに、いざ定年をしてみると何もやりたことがないんだ。そりゃそうだ。趣味なんかかなぐり捨てて仕事に没頭していたんだからな。そんな生活を送っていたのに、いきなりやりたいことなんて見つけられるわけがないんだ」
将範がそう言うと愛子は心配そうに見てくる。
「そんなことを考えてたの……?」
「俺は間違っていたと気付いたんだ。もっと働いてるときから色々なことに興味を持って挑戦してみれば良かった。そうしたら今もやりたいことが沢山あって充実した日々を送れていたかもしれない。なのに今の俺は何もない。空っぽなんだよ……。俺は人生を間違えてしまった」
将範がそう嘆くと、愛子は柔和な笑みを見せる。
「そう決めつけるのは早いんじゃない?」
「……え?」
「だったら今から色々なことをやってみたらいいのよ。その中で楽しめる趣味が見つかるかもしれないじゃない。そうしたら5年後とか10年後は充実した毎日を送れるようになるわよ」
愛子の言葉に将範は鼻をかく。
「……そんな歳で充実しててもな」
「何を言ってるのよ? 今は100歳まで生きるって言われてるんだから。あと30年、趣味を探すには十分な時間じゃない。何をするにも遅すぎるなんてことはないのよ」
愛子の言葉は軽やかだった。彼女と一緒なら年なんて関係なく、いつからでもどんなことでも始められるのかもしれないと思った。
こんな歳になってから未来のことを考えるというのは不思議な気分だった。だがそれでも心は躍っていた。