不自然な態度の夫に妻が指摘したこと

交番についた将範は身分を証明できるものを持っていなかった。仕方なく電話帳から呼び出した愛子に連絡し、事情を説明した上で免許証の入った財布を交番まで持ってきてもらった。

「あなたがそんなにマナーに厳しいなんて知らなかったわ」

帰り道、愛子はこちらをちらりと見てきた。

「別に俺はただ注意をしただけだ」

「でも口論なんて珍しいわねえ。いつもイライラすると無口になるタイプだったでしょう。だから怒鳴り声を上げるなんて、ほとんど記憶にないわよ」

「……何が言いたいんだよ?」

のんきな調子の言葉に苛立ちを覚え、将範は愛子をにらみつけた。

「何があったの? ここのところ、なんだかずっと変よ。会社を辞めたから? 一体何にそんなに怒っているのよ」

立ち止まった愛子がまっすぐに将範のことを見ていた。将範は体の横でこぶしを握り、言葉を探した。

「……もう何をどうしていいのかが分からないんだ」

ため息を吐いた。