職場への違和感が積み重なり、退職を決意

啓太は深いため息をついた。

「稼げるのはそうだよ。普通の企業と比べたら貰えてると思う。でもさそれ以上にウチの会社は仕事が過酷なんだよ。早朝出勤とか残業は当たり前にあるし、土日出勤だってある。いくら稼げてもこれじゃ体がもたないって」

「仕事とはそういうもんだ。何でもかんでも思い通りにいくわけじゃない」

孝輔は真面目な顔で啓太に伝えた。しかし啓太は納得していない様子だった。

「それだけならまだいいよ……。でも数字を追ってばっかりだし、営業はそれが仕事なんだけど、先輩も同期も業績が良ければ多少社内でデカい顔してても大丈夫、みたいな感じだし。クライアントの規模に応じて対応だって変わるし、コスパ悪い客を切るのも仕方ないって感じなんだよ。なんか、だんだんと人を数字でしか見れなくなっていく気がして、ちょっともういいかなって思ったんだ」

心根の優しい啓太だからこそ言える言葉だった。だが、たとえそうだとしても、これまでお金と時間を使い、ようやく手に入れさせることができたステータスをふいにすることに首を縦に振るなんてできなかった。

「でもそこを耐えていればさ……」

「耐えてなんになるの?」

啓太に睨まれて清香は口をつぐんだ。