無事だったが想像よりも老け込んでいた父

瑛美は父のことが嫌いだった。

役所勤めの茂人は絵に描いたような堅物で、厳格で、几帳面な人だった。遊びたい年頃だった学生時代などはそんな茂人とぶつかることも多く、瑛美からすると茂人はとにかく話を聞いてくれない分からず屋という印象だった。

大人になり結婚をして、42歳となった今、茂人に対する嫌悪感は昔ほどではなくなっている。とはいえ、わざわざ顔を突き合わせたところで話が弾むわけでも、居心地がいいわけでもないために、5年前に母の秀子が亡くなって以来、瑛美が実家へ帰る足は遠のいていた。

駆け込み同然に病室に入ると、ベッドに寝ていた茂人と目が合った。

新幹線を降りたころにもう1度和代おばちゃんから連絡があり、茂人が倒れた原因がただの熱中症で、命に別条はないことを聞かされてはいた。それでも万が一という心配は拭えずにいた瑛美だったが、茂人のけろっとした様子を見るに本当に大丈夫なのだろうということが伺えた。

だが、瑛美は父はこんなに細かっただろうかとまじまじと見つめざるを得なかった。頭髪だってこんなにも薄く、こんなにも白かっただろうかと首をかしげざるを得なかった。