窓を閉めてテレビを点けていてもやかましいセミの声が家の中に入ってくる。今年の夏は例年にも増して暑く感じるのは、きっとセミの声のせいでもあるのだろう。瑛美は家の中でクーラーをガンガンにつけてリビングの掃除をしていた。

そんなとき、家の電話が鳴った。

携帯電話でのやり取りがほとんどになったので、ほとんど置物同然だった家電の着信を訝しがりながらも、瑛美は掃除の手を止めて受話器を耳に当てた。

「もしもし、瑛美ちゃん。扇原です」

扇原という苗字を聞いて瑛美は戸惑った。あまり聞きなれない苗字と電話の声からして実家の隣に住んでいる和代おばちゃんだろう。しかしどうして和代おばちゃんが瑛美の家に電話をかけてくるのかが分からなかった。

「……和代おばちゃん?」

「そうよ。ああ良かった。覚えててくれたのね?」

「もちろんよ。でもどうかしたの?」

「それがね、茂人さんがね倒れちゃったのよ」

和代おばちゃんの言葉に瑛美は頭が真っ白になった。茂人とは瑛美の父親の名前だった。

「お父さんが、倒れた……?」

「うん。ちょっと用があって家に行ったのよ。そしたらインターフォンを押しても反応がなくて、玄関の鍵も開いててね。開けて中に入ったら廊下で茂人さんが倒れてたの」

「え……それで……⁉」

「救急隊の人が来てくれて、もう病院に着いたから大丈夫よ。でもご家族がいたほうが手続きとかも楽だろうし、来れそうなら病院まで来てもらえないかしら」

瑛美は搬送された病院を聞き、すぐに家を出た。とはいえ実家までは新幹線に乗っても3時間かかる。瑛美は手が汗ばむのを感じていた。